4月 第二ボタンと新しい制服(改稿版)
Side:Koshiro
時は2005年。ぼくはこの春から高校生になった。着慣れない新しい制服に、履き慣れない靴、新調したカバン。中学生になったばかりの頃、初めて制服というものを着たときにも思ったけれど、高校の制服を着ていると、また一段と大人に近づいたような気がする。
入学してから今日でちょうど一週間。今朝はとある人と一緒に登校する約束をしていたんだ。
「忘れ物は……うん、大丈夫だな。歓迎会で読む原稿も持ったし」
自分の部屋で、持ち物の確認をし終えたぼくの携帯に、メールの着信があった。
通知が見られる窓を見ると、送り主は太一さんからだった。
『今、マンションの前まで来たぞ』
それを読んだぼくは、カバンを持ち部屋を出て、お母さんに声をかけた。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
ぼくがマンションの入口を出ると、入口近くにある植木の植え込み近くで、太一さんが立っていた。
「おう、おはよ」
「お待たせしました」
「いや、今来たばかりだから大丈夫だぞ」
太一さんは笑顔で答えた。
「じゃあ行くか」
「はい」
ぼくたちは学校に向かって出発した。
「今日はすみません。ぼくに合わせてもらっちゃって」
駅までの道を歩く途中、ぼくが謝ると、太一さんは「いいって。気にすんな」と言ってくれた。
「オレもたまには電車で行きたいなー、って思ってたとこだからさ。ちょうどよかったよ」
普段、太一さんは学校まで自転車通学をしている。ぼくは今のところは電車だけど、もう少ししたら自転車で通おうかと考え中だ。
そんなぼくたちが通っている高校は、台場駅からゆりかもめで何駅か行った先にある、月島高等学校。月島高校があるのは、月島というもんじゃ焼きが有名な地域で、ぼくの住んでいる家から割と近い場所だ。東京メトロ有楽町線と都営大江戸線の月島駅が最寄り駅のため、ゆりかもめでは直接通えない。汐留駅で都営大江戸線に乗り換えて月島駅で降りるんだ。
ぼくは電車の乗り換えに慣れているし、苦じゃないけれど、月島高校に通う生徒は太一さん以外にも自転車通学の人が多い。あっ、これならやっぱり……決定かもしれないな。自転車通学の方が何かと便利かもしれないし。うん。
ぼくが自分の中で、これからの通学方法に決着をつけた時、太一さんからこんな話題を振られた。
「そういえばさ、光子郎よく引き受けたよな」
「何をです?」
「新入生歓迎会の代表挨拶の代打」
「ああ、あれですか」
そう。ぼくは今日の6時間目に行われる、月島高校の新入生歓迎会で新入生の代表挨拶を、本来やるはずだった人の代わりをすることになったんだ。
実は合格発表の時、自慢ではないけど月島高校の受験生の中でトップの成績だったらしく、是非代表で挨拶をと、先生方から打診されていた。だけどぼくはそういう類のことが苦手だったから、丁重にお断りしていたのだ。その時は入試の成績が次点だった女の子が快く引き受けてくれて、その子が新入生歓迎会の挨拶もしてくれるはずだったのだけど……。
「篠塚さん、熱大丈夫かな」
「昨日連絡した時点では、少し熱は下がったようです。でも、まだ38度近くあるとか……」
「そうか……無理しないといいけどな」
「そうですね」
話題にしている篠塚さん、というのは帰国子女の新入生、篠塚さりなさんのことだ。都立入試の前後に一時帰国し、今から2週間前に完全帰国してきたばかりだった。
そんな彼女は、最初に打診されたぼくの代わりに、入学式では立派に挨拶を読み上げていた。そして先の話のように、新入生歓迎会の挨拶も引き受けてくれていたのだが、慣れない生活の疲れが出たのか、熱を出してしまい昨日から欠席している。連絡を取ると、篠塚さんは熱で浮かされながらも「やっぱり何が何でも行く! 自分がやると言ったからには責任を果たしたい、そもそも、このままだと光子郎さんに申し訳ない!」と言っていた。しかし、ぼくを始め、実行委員である生徒会の先輩方や先生方もみんな、高熱の彼女を全力で止め、篠塚さんも渋々諦めてくれたのだった。
「しっかしさあ、篠塚さんがサリィだったなんて、名乗られるまで夢にも思わなかったよ」
「やっぱりそうですよね」
サリィさんとは、ぼくたち選ばれし子どものネットワークで運営しているホームページ内で出会った、アメリカに住んでいる日本人の女の子だ。アメリカの中学校に通い、ぼくやミミさんと同じ16歳で、両親の仕事の都合で6歳から向こうに住んでいる。プログラミングやデータ解析に長けていて、ぼくもプログラムを組むのが趣味だから、彼女と話が合う。最初はチャットや掲示板のやり取りが多かったけれど、そのうちメールアドレスを教えて、メールでもやり取りしていた。
メールなどでの印象は、冷静で的確な人。メッセージのやり取りをしている限りでは、ぼくたちより年上、丈さんと同じ年くらいに見えた。だから彼女が、ぼくやミミさんと同じ年だと知った時はとても驚いたんだ。
そんな彼女は、昨年の12月ごろから突如日本に行きたいと言い出した。なんでも、日本の女子高生に憧れているらしく、どうしても日本の高校の制服が着たいと言っていた。飛び級し、大学に通っていてもおかしくはない彼女の頭脳からしたら(彼女自身は飛び級に関心がなかったようでしていないらしい)日本の最難関の私立高校や国立高校を受けても、物足りないんじゃないかと思っていた。だけど、彼女は東京都内でも中の上の偏差値の月島高校を受験すると言ってきたのだ。彼女はぼくへのメールの中で、『月島高校のホームページ見たけど、制服が可愛かったし、Koshiroさんはそこの高校志望なんでしょ? ならいい学校に違いないわ!』 と言っていた。
(ま、まあ決して悪い学校ではないけれど、ぼくが月島高校を志望したのって結構、いや……かなり不純な動機だからな)
そんなことを考えながら太一さんの横顔を見る。すると。
「ん? オレの顔、なんか付いてるか?」
「あ、いや……なんでもないです」
ぼくは少しだけ火照った顔を、隣にいる人に見られないように俯いた。
話を戻すと、サリィさんはそのあと本当に都立の高校の受験の願書を入手し、本当に入試を受け合格し、本当に月島高校の入学手続きをしたんだ。
そしてぼくは偶然にも、サリィさんの正体を入学前に知ることになった。
合格発表の日。月島高校で自分の受験番号を見つけて安心していた時、やたらテンションの高い女の子がぼくの近くにいることに気が付いた。友達らしい女の子と一緒に合格したことを喜んでいるようだ。
無性に気になって様子を見ていると、彼女の携帯に電話がかかってきた。電話を受けた彼女は、流暢な英語で受け答えしていて……。その時ぼくはあることを思った。
(あの人、何処かで見たことがある気が……)
ところが。
「あーーーっ!!!」
「えっ」
その当人が、こっちに向かって近づいてくる。まずい、そんなにジロジロ見ていたかなと焦っていたら。
「あの、もしかして……あなた、Koshiroさん?」
「へ? あ、はいそうですが」
聞かれるがままに答えると、彼女は思わぬ反応をした。
「きゃー! 夢にまで見た本物!? 会いたかったですー!」
「えっと……」
「あっ、申し遅れました! あたし、ハンドルネーム:サリィこと篠塚さりなです!」
一瞬、ぼくは思考が止まった。
「えっ、きみが!?」
ぼくは混乱していた。同時に、ぼくは思い出した。彼女に見覚えがあった理由。実は、彼女の姿は前に一度、送られてきた写真を見て知っていたんだ。
ある時サリィさんが、日本の選ばれし子どもの、みんなの顔が知りたいと言ってきたことがあった。でも、その頃は忙しくて、アメリカの仲間にぼくたちの集合写真を送ってもいいかどうか、みんなに確認することができなかった。だから、彼女には申し訳ないけど、ぼくだけが写った写真を探して送っていた。すると、サリィさんは、『Koshiroさんって律儀なのね』と言って、彼女だけが写った写真を送ってくれた。そんなわけで、その時の写真を事前に見ていたから、どんな人かは知っていたんだ。だけど……ぼくの想像していたサリィさんのイメージと、実際の彼女は全然違くてビックリしたのだ。
サリィさんと一緒にいた女の子が、駆け足でこちらに来た。そして不思議そうに、
「サリちゃん、この人って」と、彼女に聞いた。
「ほら、いつもチャットしていたKoshiroさんよ、ナギ。デジヴァイス、持ってるでしょ?」
ぼくのことを紹介した女の子に対して、サリィさんは胸を張った。すると、その女の子はすまなそうにした。
「ごめんなさい。怪しんじゃって。サリちゃんがナンパされてるのかと思っちゃって」
この時、サリィさんと一緒にいたのは、彼女のいとこの「ナギ」こと、相馬凪沙さん。彼女にもパートナーデジモンがいて、ぼくとホームページ内でやり取りしたことがあったんだ。彼女は現在、ぼくとサリィさんの隣のクラスにいて、時々ぼくに話しかけてくる。
それから半月以上が過ぎ、ぼくたちは月島高校に入学した。そして例の件、新入生代表挨拶をサリィさん……もとい篠塚さんが引き受けてくれ、見事にその役目を果たしたんだ。
程なくして、新入生歓迎会の代表挨拶もすることになり、篠塚さんは生徒会の先輩方と毎日打ち合わせをしていた。
そんな彼女は打ち合わせ後に戻ってくるたび、
「あの副会長さん、親切でカッコいい人ね!」
と言っていた。
打ち合わせは入念にしていたようで、気合十分のようだった。ところが3日前のこと。
「なんか、朝起きたら喉が痛くて……」
「風邪でしょうか」
その日登校してきた彼女は、少し具合が悪そうだった。大丈夫、とは言っていたけれど、時間が経つにつれ顔色が悪くなり、ぼくは保健室に行くことを勧めた。
篠塚さんが保健室に行った後、授業の合間に、ぼくはある人物にメールをした。そして昼休みに、保健室にいた篠塚さんを連れて、連絡した人物に会うべく生徒会室に行った。
ドアを開けると、そこにはぼくが休み時間にメールをした人がいた。
「おう、光子郎。待ってたぜ」
「すみません太一さん、せっかくの昼休みに」
「いいや、大事なことだから。むしろ知らせてくれてありがとな」
太一さんとぼくの会話を横で聞いていた篠塚さんは、不思議そうにして、
「光子郎さんは副会長さんと知り合いなの?」とぼくに聞いた。そんな彼女に、ぼくはあることを告げた。
「篠塚さん。彼がTaiさんですよ」
「……えっ! ほんとに?」
篠塚さんは大きな目を丸くした。太一さんのほうを見ると訝しげな表情をしていたから、すぐさま補足した。
「あの、太一さん。篠塚さんは、チャットルームにいた、あのサリィさんなんです」
ぼくが告げた後、一瞬、生徒会室の時間が止まる。
「えっ。……ええーーっ!?」
太一さんは、ぼくの予想以上のリアクションをしていた。
「ま、マジで? 本当に?」
驚く太一さんに篠塚さんは頷いた。
「ぜんっぜん気付かなかった……」
太一さんは口をあんぐりとさせていた。
ネット上ではTaiと名乗る太一さんは、篠塚さんとチャットをしたことがあり、かねがね「サリィはすごい子だな。話が早いし、まるで光子郎と話してるみたいだ」と言っていたんだ。
ぼくはメールにも記したことを太一さんに改めて伝えた。すると、太一さんは腕を組んで唸った。
「いや。でも、篠塚さんがいくらサリィだからって、無理はしないほうがいい。絶対! ここで休んどかないと余計に具合悪くなるぞ」
「でも……」
「新入生歓送迎会は一回だけだ。けどな、これから日本で生活するなら、身体のほうがはるかに大事だぞ?」
太一さんの言うことはもっともだと思う。ぼくは彼の援護に回った。
「篠塚さん、ぼくも休むことをお勧めします。アメリカと日本の気候は違いますし。ましてや環境が変わっ たばかりで無理は禁物です。それに歓送迎会の挨拶、太一さんやぼく、みんなでなんとかしますから」
篠塚さんはその場では納得しないようだったけど、このあと余計に熱を出し、結局早退することになり、昨日も休むことになった。
と、ここまでがぼくが代役を引き受けるかどうかに至るまでの詳細な経緯である。
「太一さんは、篠塚さんの実際の印象、どう思いました?」
「サリィとしてなら、チャットの印象だと口調はともかく、光子郎が女の子だったらあんな感じなのかなって思ってたけど。実際の……篠塚さんはミミちゃんか京、って感じだよな……あれ」
「どっちかと言うと、あのハイテンションさは京くんですかね」
ぼくの一言に太一さんは、その通りと言いたいようにうんうんと頷き「風邪が治って本調子になったら、パワーすごいんだろうな」とつぶやいた。
「でもさ。篠塚さんって、いい子だし、普通にしてたらすっげーかわいいよな。おまえもそう思わない?」
「まあ、そうですね。それは思います」
「だろ? そこがな、勿体無いよなあ」
太一さんの言う通り、篠塚さんは見た目可愛いし美人だ。そこに、彼女のハイテンションな性格は玉に瑕かもしれない。だけどそれも彼女の良い個性だとぼくは思う。ただし、ぼくには気になることがあった。
太一さんは案外面食いなところがある。だから、そんな話題が出るとぼくは少し、不安になってしまう。それが顔に出ていたのか、太一さんはぼくの顔を覗き込んでにやにやと笑った。
「ま。でも、オレにとっての一番はずっと隣にいるしな」
「えっ」
いきなり振られたことに、ぼくはだんだん顔が熱くなってくる。
「お、なんだ? 顔赤くして」
「しっ、してないです!」
「あははっ、かわいーやつ」
そう言うと太一さんは笑った。
「ともかく。サリィ……篠塚さんの体調、早く良くなるといいよな」
「ええ、そうですね」
「あの子が日本にいてくれるならさ、光子郎がふたりいるみたいで心強いし。仲間として色々話したいこともあるのと、今後の相談もしたいしな」
彼女を思いやりつつも、先のことを見据える太一さんにぼくは頷いた。
「だけどさ、やっぱりどうしても気になるんだよなあ。そこで断ることも出来たわけだろ?」
「えっ?」
「代表挨拶のこと。光子郎、なんで引き受ける気になったんだ? おまえの性格上、そういうの得意じゃなかったよな?」
どうしても太一さんは気になるらしい。そんな彼にぼくは口を開く。
「まあ、確かにそうなんですけど。あれから一晩考えて、気持ちが変わりました」
「というと?」
「太一さんなら、引き受けると思ったんです」
「え?」
ぼくは続けて、このような理由を話した。
太一さんは、なんだかんだ言いながらも率先して物事をこなすし、高校ではサッカー部のエースとして活躍する傍ら、生徒会の副会長もしているのだ。そんな彼をぼくは心から見習いたいと思っている。
それを聞いた太一さんは照れ臭そうにしていた。
「ま、まあ確かに、オレは誰かが困ってたら見捨ててはおけないけどさ。生徒会のほうはなんっつーか、なし崩し的に、ってやつ? クラスメイトから、なーんかやたら推薦されてさあ」
「それでもすごいです。太一さんは」
「そ、そうか? それなら今度さ……」
太一さんは言葉を溜めて、ぼくの耳元でこんなことを囁いた。
「オレと、久しぶりにイイコトしようぜ?」
聞いた瞬間、ぼくは太一さんの頬をつねった。
「いでっ! な、なにすんだよ」
「もうっ、太一さん! あなたはいつも一言余計なんだから」
ぼくはさっきの発言を撤回したくなった。
「いてでっ、お、おまえは溜まってないのかよ」
「えっ……」
「どうなんだ?」
太一さんは訝しげにぼくを見つめてくる。ぼくは居たたまれなくなった。
「そ、そんな、は、恥ずかしいこと、ここで言えるわけ、ないじゃないですか……」
「だって、オレ以外に誰もいねえじゃん」
「そういう問題じゃないんです」
「ほら、オレの耳元でこっそり言えよ。な?」
太一さんにじっと見つめられ、ぼくは彼の耳元へ口を寄せた。
「し、したいです……」
消え入りそうな声で、ぼくは本音を白状した。
「じゃあ、今度の土日、オレんち泊まりに来いよ」
「ヒカリさんは? 大丈夫なんですか?」
太一さんには3歳下の妹・ヒカリさんがいる。彼が中学生になるときに部屋は分かれていて、ぼくがもっぱらお邪魔するのは彼の部屋なんだけど、もし、太一さんと彼の部屋ですることになるなら、ヒカリさんがいるとちょっとだけ気まずい。
「ヒカリは今週末、家にいない。京んちに泊まりに行くんだとさ」
「そうなんですか」
太一さんの返答に、ぼくは勝手ながら少しホッとした。そして、ヒカリさんと京くんは相変わらず仲がいいなと感心する。
「で、どうする?」
「じゃあ、お邪魔します」
「おう、楽しみにしてるぜ」
太一さんはニッと笑顔になった。
歩きながら話し込んでいる間に、気がつくと学校の昇降口にたどり着いていた。
「それじゃあまた昼休みにな」
「はい」
ぼくの学年、一年生の教室がある廊下で、ぼくたちはそれぞれの教室に向かおうとした。
その時、ぼくは太一さんに呼び止められた。
「光子郎はあれ、まだ持ってる?」
「あれって?」
太一さんの言葉に、ぼくは首をかしげる。
「オレの第二ボタン」
耳にした瞬間、ぼくは顔がほころんだ。
「もちろん。受験の時にお母さんから貰ったお守りの中に入れて持ってます」
ぼくが答えると、太一さんは嬉しそうに笑った。
「太一さんは?」
「オレも持ってるよ。実はさ。オレも、おまえのおばさんから貰ったお守りに入れてるんだ」
「そうなんですか、ぼくとお揃いですね」
「そうだな」
ぼくたちはお互い、微笑み合う。
すると、不意に太一さんがぼくに近づき、ぎゅっと抱きしめた。
「えっ、わっ、たいちさん!?」
「へへ! チャージ完了」
無邪気に笑う彼にぼくは、呆れてしまう。けれど、抱きつかれたことに嬉しく思ってしまった。
「じゃあ、また5時間目にな」
こうして、自分の教室近くで、ぼくは太一さんと別れた。
(もうっ、太一さんは……)
誰が見ているか分からないところで、そういう行動をするのは謹んでほしいと思うぼくである。
だけど、そんな彼のことを呆れはしても、嫌いになれるはずがないんだ。
ここまで読んで、お気付きの方が多いと思うけれど、太一さんとぼくは恋人として付き合っている。ぼくの太一さんへの片思いが実ってから2年以上経つ。時に喧嘩をすることもあるけれど、基本的には仲が良い。だから呆れはしても、そのあたりはもはや諦めているんだ。
(篠塚さんから預かっていたスピーチ文の読み込みでもしよう)
深いため息を吐いた後、気を取り直してぼくは、まだ誰も来ていない自分の教室へと入った。