1990年代から2020年代にかけて、現実世界は大きく変化を遂げた。
それは「ひとつの世界」への邂逅と、「未知の生命体」との出会いから始まった。
異界の地・デジタルワールド。デジタルデータの生命体・デジタルモンスター、通称・デジモン。
一部の人間の間にしか知られていなかった、ふたつの存在が、ある時から急激に知られるようになり、とある人々が注目されるようになっていた。
パートナーと呼ばれるデジモンを連れた人々。選ばれし子どもたちだ。
いや、当初は「子供だけ」にしかいなかったが、それは徐々に大人にまで広がっていった。
パートナーデジモンを持つ人々が増えるとともに、それに伴った問題が噴出するようになった。それがやがて、社会問題及び国際問題へ発展していく中で、さらに注目を集めたのがデジタルワールドやデジモンを研究する専門機関と研究者たちである。
デジモンの問題が広まるにつれ、デジモンやデジタルワールドの研究も盛んに行われるようになり、それにより、あるひとりの日本人研究者が注目されるようになった。
「Dr.イズミ! お会い出来て非常に光栄です」
海外の研究チームから挨拶を受けた男の名は、泉光子郎。2027年現在の年齢は38歳。1999年にデジタルワールドの研究を始めてから28年の月日が経つ。彼はデジタルワールド研究の第一人者として、日本のみならず、世界中に名の知られている研究者だ。
デジタルワールド、そしてデジモン研究に関する著書を多数持ち、それらを読み、彼の所属する研究所や講義を行なっている大学の門を叩く者が続出している。
彼はライフワークともなっている研究の傍ら、後進の育成にも力を入れており、出身大学の教授を務め、学生に講義をし、自らのゼミで指導を行っている。その他、講演会なども数多くこなし、忙しい日々を送っている。ちなみに、彼の担当する講義や講演会はとても人気で、会場には常に満員近くの人が集まり、特に学生や女性に人気だ。それは、老若男女に分かりやすいと評判の彼の説明力、そして物腰の柔らかい彼の態度やオーラから来ているのだろうと推測する。さて、ここに、彼の出身大学で行われた、ある講演会での発言がある。それを一部、ご紹介しよう。研究のみならず、あることに熱弁を振るっているところにご注目頂きたい。
「ぼくには、尊敬している人がたくさんいますが、中でも、デジタルワールドの全権大使をされている外交官の八神太一さんを、より強く尊敬しています。八神さんはデジタルワールドとデジモン、そして人間のより良い関係のために尽くし、ぼくと同じデジタルワールド関連ではありますが、ぼくとは畑違いの、外交という分野において大変な苦労をされました。いまでは、ぼくたちのそばにいることが当たり前になっているデジモン。そして、身近な世界であるデジタルワールド。そこに至るまでの道のりは苦難の連続でした。八神さんはデジタルワールドやデジモンの認知活動において、最も貢献した人物と言っても過言ではありません。彼は世界に向けて発信、交渉を繰り返し、その結果、世界中の人々が、今日のように、デジタルワールドとデジモンを認知し、排除ではなく、共存の方向へ進むまでに至ったのです。(中略)どの分野においても、僭越ではありますが、ぼくを始めとする、研究者の存在は必要不可欠だと、ぼくは考えています。しかし、どんなに優れた研究成果を生み出したとしても、内輪だけで盛り上がって終わってしまったり、他者に伝えようとしたとしても、その中身が正しく相手に伝わらなければ話になりません。人間とデジモンが、これからも共存していけるように。研究者は研究のみならず、後進に伝える努力を。そして内輪だけでなく、外に向けてのアピールも積極的にしていくべきだと、ぼくは思っています」
このように、彼は研究に傾倒するだけでなく、研究成果を外に向けて発信していこうという強い思いを抱いているのだ。
彼は幼少の頃から探究心が強く、根っからの研究者気質で、物事に対する集中力がとても高い。一旦何かに集中すると、話しかけられてもなかなか応じないほどだ。しかし、その反面、他者に対して自分の思いを伝えることが非常に苦手であった。それには、幼少の頃のある出来事が関係している。
かつての彼には、自分の殻に閉じこもり、他者の交流を出来る限り避け続けていた時期があった。それは、彼自身の出生の秘密――物心つく前からずっと一緒に暮らしてきた両親と血が繋がっていない、養子だったこと――に関わっていたのだが、そのことで両親と和解して以降、少しずつではあるが他者と関わっていこうと前向きになっていったのだった。
彼がそのように変わっていったのは、28年前の1999年に選ばれし子どもの一員としてデジタルワールドを冒険し、掛け替えのない友人や仲間たちと出会ったおかげである。
デジタルワールドを仲間と共に冒険し、自分と同じようにパートナーデジモンを持つ仲間が増え続けている事実に気付いてから生まれた「デジモンのことで困っている仲間がいたら、仲間を助け、仲間のために役に立ちたい」という彼の想い。それは大人になった現在でも、彼がデジタルワールドの研究を始めた小学生の頃と変わっていないようだ。
これは、そんな彼、泉光子郎と彼の旧知の仲間たちの2027年の物語である。
2027年春〜ぼくらの歩む日々〜【シリーズ本編】 - 3/3
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