Side:mimi
「あの時の写真、本当に探してくれているかしら……」
あたし太刀川ミミは、日本へ向かう飛行機の中で日本に住む同級生の友達のことを思い浮かべていた。
それはおとといのこと。あたしは珍しく日本に向けて国際電話をかけていた。
電話の呼び出し音が数回なった後、受話器の向こう側から、聞き覚えのある女の人の声がした。
『はい、泉です』
そう、あたしが電話をかけたのは光子郎くんのお家。電話に出たのは光子郎くんのお母さんだった。
『あら、太刀川さん! ご無沙汰ね』
「お久しぶりです」
あたしはおばさんへの挨拶もそこそこに、用事の相手――光子郎くんがいるかどうかを聞いた。すると。
『いるわよ。光子郎、今は自分の部屋にいるんじゃないかしら。すぐに呼んでくるわね』
そう言っておばさんは電話を保留にした。それから待った時間は、2分もかからなかったと思うけど、あたしには永遠のように感じられた。
唐突に保留音が切れ、よく知った彼の声が聞こえてきた。
『もしもしミミさん、お待たせしま……』
「光子郎くん! いつまでこのあたしを待たせるのよ!」
開口一番、あたしは光子郎くんの言葉を遮って、彼に抗議をした。
『す、すみません、遅くなって』
「滅多にかけない国際電話なんだから! もっと気を使ってよ!」
国際電話は国内通話より割高で、あたしはほとんど使わない。みんなに音声で連絡を取るときは、ビデオメールかインターネット通話だった。だけど、あたしはすぐに光子郎くんと話したかった。彼に頼みがあったこと以上に、今すぐに彼の声が聞きたかった。でも、いざ彼と話すとどうしても、自分の本当の気持ちに素直になれなくて、正反対のことをしてしまう。
そんなあたしに光子郎くんは「本当にすみません」と平謝りをした。
『でも、ミミさんが国際電話をかけてくるなんて、珍しいじゃないですか。何かあったんです?』
光子郎くんに聞かれて、あたしは本来の用事を思い出した。
「そうだった、光子郎くんに急ぎで頼みたいことがあるの!」
『頼み、ですか。何でしょう?』
「あたしと光子郎くんの昔の写真。小学3年生の時の写真がどうしても見たくなって……」
あたしがそう言うと、光子郎くんは、ああ、と返事をした。
『その頃の写真なら、ミミさんもお持ちじゃないんですか?』
「アメリカに来るときに持ってきたはずだったの。だったんだけど……どうしても見つからなくて。今度帰国した時に見たいから、探しておいてほしいの!」
あたしは、お願いっ、と頼み込む。すると、光子郎くんは
「そうですか、分かりました」と言ってくれた。
『昔の写真は多分、お母さんがしまっていると思うので、聞いてみます』
「ほんと!? ありがとう、光子郎くんっ!」
あたしがお礼を言うと、光子郎くんは「いえいえ」と答えた。
『それで、いつまでに探せばいいですか?』
「うーんとねえ……あさって」
『そうですか……って! あさってですか!?』
「そうよ。あさって」
焦っている彼に、あたしは得意げに主張した。
「土曜の朝には日本に着くようにするから、それまでにお願いね☆ じゃあね~!」
『えっ、ちょ、ミミさ』
ガチャッ。
あたしは彼に有無を言わさず電話を切った。
「……よし」
置いた受話器の横で、あたしは小さくガッツポーズをした。彼と約束は取り付けた。あとは土曜の朝までにあたしが日本に行くだけでいい。
「今から出国の準備をしなくっちゃ」
あたしは自分の部屋にあるスーツケースを出して、早速荷物を詰め始めた。
女の子はいろいろと準備がいる。最近は旅慣れてきたけれど、やっぱり早めに準備しておくに越したことはないと思う。
ある程度準備を終えたあたしは、一休みしようと、机の上に広げていたアルバムを手に取った。
そこには、小学生の頃のあたしの写真がいっぱいあった。
そう、光子郎くんに頼んでいた「小学3年生のころの写真」も。
うん、ここでこれを読んでいるあなただけに白状するけれど、光子郎くんに頼んで探してもらっている写真は、本当は無くしてない。事実、その写真は今、あたしの目の前に存在している。
どうしてそんな嘘をついてまで彼に探させたか、と言うと。光子郎くんと、あの頃の話をどうしてもしたかったからなの。もしかしたら、光子郎くんにとっては、思い出したくもない出来事かもしれないけれど……。あたしと光子郎くんにとって大切な、大事な出来事だったから、どうしても話したいと思ったの。
小学3年生。1998年の春。それは、あたしと光子郎くんが出会った季節。
あたしは、これからの未来のために、過去の話をもう一度してみたいと思っていた。
そう、デジモンやデジタルワールドと出会った今だからこそ、視点を変えて、振り返ることが出来るんじゃないかって。あたしはそう信じている。
だから今、あたしは飛行機に乗って、日本へと、光子郎くんの元へと向かっている。
(写真、探してなかったらタダじゃおかないんだから……)
そんなことを考えているうちに、いつの間にかあたしは、ウトウトと眠りについていた。