君と僕の距離 - 19/21

side:Koshiro

「やだ、すっごくいい話じゃない! 光子郎、ステキ!」
「やっぱり光子郎はんは隅に置けまへんな」
「あははは……」
 パルモンとテントモンは手放しに、しきりに感心していたけど、ミミさんから打ち明けられた話に、僕はそんなこともあったなあと苦笑いをこぼした。
 ミミさんからの思いがけない謝罪の話はともかくとして。
 長いようで短かったあの夏の冒険が終わり、僕たちはそれぞれに喪失感を抱えていた。けれど、それを必死に乗り越え、前に進もうとしていた。僕は、デジタルワールドの謎を解明すれば、再びテントモンたちに会えるのではないかと考えて、前以上に研究に邁進していた。
 当時も今も、気まぐれなデジタルゲートを開くことは、途方も無いことで、今より子供だった僕の研究じゃ限界もあった。ところが。つい数ヶ月前に現れたD3は、あっさりとデジタルワールドへのゲートを開いてしまう。それは所有者である大輔くんたちに、デジタルワールドで果たすべき使命があるからだろうと、僕は推測している。僕たちの時のように。
 だけどあの頃は、デジタルゲートを研究すること、それがデジタルワールドへの、未来へつながる道だと、信じてやまなかった。
 もちろんそれは、今でも変わらない。そして、これからもきっと。
「で、結局。ミミと光子郎って、どんなカンケイなワケ?」
「へ?」
 パルモンに唐突に質問をされ、僕は固まった。
「どうなのかしらね。光子郎くんはどう思う?」
「どうって……そんなの分かりませんよ」
「ホンマにそう思いはるんでっか?」
 テントモンにじっと見つめられて、僕は考え込んでしまった。
 なんだか、ミミさんがこちらを見つめてきている気がするけど、今の僕にどうしたらいいのか、その術は知らない。その最中、彼女に名前を呼ばれた。
「あたし、これから他にも用事があるから、帰るわね」
「行くわよ、パルモン」とミミさんは立ち上がった。
 言われたパルモンは慌てながら、「ミミ、待って!」と追いかけて行った。
 この場に残されたのは、僕とテントモンだけ。
 しばらくの沈黙の後、僕はテントモンに質問された。
「光子郎はん。ミミはんのこと、追いかけんでええんでっか?」
 僕が彼を見つめると、彼は、
「ミミはんに何か言うべきこと、ありまっしゃろ」と続けた。
「言うべきこと……」
「あんさんはこのままで、後悔しまへんか?」
「!」
 僕は立ち上がり、出て行ったミミさんのことを追いかけた。
 走って追いかけ、すぐに追いつくことが出来た。
「ミミさん!」
「光子郎くん?」
 ミミさんは不思議そうに振り向く。
「あっ、あの。今日はアメリカからわざわざ来てくれて、ありがとうございました」
 言った僕は俯いた。やっとの事で言えたこと。なんだか他にも言うべきことがある気がするのに、いまはこれしか思い浮かばなかった。
 すると、突然唇に柔らかい感触がした。
 そうそれは、ミミさんの……。
「あたしね、光子郎くんのことが、好き」
 唇を離したミミさんが、僕に向かってそう言った。突然のことに僕は混乱した。
「えっ、あの」
「いまは返事を聞かないわ。いつか、必ず返事、くれればいいから。じゃあまたね! 光子郎くん」
 そう言い残し、ミミさんは軽やかに去って行った。
「ありゃ、ミミはんのほうが一枚上手やなぁ」
 いつの間にか僕を追いかけてきたテントモンがつぶやいた。
「……僕は、ミミさんに、振り回されてばっかりだ」
 思いがけないミミさんの告白に僕は、呆然となる。そして、ふにゃふにゃとその場に座り込み、途方に暮れていた。

side:mimi

「ねえミミ。本当に良かったの?」
 パルモンは怪訝な顔をしてあたしに聞いてきた。
「なにが?」
「相手の返事も聞かない告白なんて。あんなんじゃ、告白のうちに入らないわよ」
 なんだかパルモンは、呆れ気味に言っているけど。
「いい女はね、待つものなのよ。パルモン」
 あたしは前を向いて歩きながら、密かに笑う。
「それに。光子郎くんにそっちの免疫がないの、分かってるし。きっと今頃、パニックになっているわ。いつか返事を貰えたら、それでいいのよ」
「ふうん……変なの」
 どうしてか分からないけど、パルモンはため息をついた。

 出会ったあの頃から、僕たちは互いの距離がうまく掴めない。だからこそ、お互い知らぬ間に傷つけ合った。でも……あなたは特別なひと。これからもずっと、きっと……ね。

                        Fin.

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