君と僕の距離 - 16/21

「じゃあ、ゆっくりしていってね」
 ひと通り話して満足したお母さんは、ミミさんとパルモンにお茶と手作りお菓子を出すと、夕飯の買い物に行くと出かけていった。
 机の椅子に逆向きに座った僕は、ぐったりと背もたれに寄りかかりながら、ため息をついた。
「光子郎くんって、ホントに小さかったのね! いまもあたしより背が低いけど」
 僕のベッドの縁に座ったミミさんとパルモンは、我が家のアルバムをめくりながら、面白そうにしている。
「……余計なお世話ですよ」
「光子郎はん、もしや気にしてますの?」
 テントモンは僕のほうを見て言った。
「女の子より背が低いって、その、なんというか……僕だって一応男なんだし、気にしますよ」
(全く、お母さんは話さなくてもいいことまで話すんだから)
 僕は再びため息をつく。
 ふさぎ込んでいた頃は、僕と両親、どちらもお互いに気を遣っていたから分からなかったけど、僕のお母さんは結構天然なところがある。でも、あそこまで天然だとは思いもしなかった。
「三年前に比べたら、えらい伸びたと思いますけどな」
「そうだけど……」
「そんなことないと思うわ」
「え?」
 唐突に間に入ってきたミミさんに、僕は聞き返す。
「背が低くたって、昔から光子郎くんは頼りになるし、カッコいいとあたしは思うけどな」
(それって、どういう意味なんだろう?)
 彼女の言葉に、僕が首を傾げていると。
「あっ、もしかして。これがミミ?」
「となると、隣が光子郎はんでっしゃろか」
 パルモンとテントモンがいつの間にか仲睦まじく、アルバムを見ていた。
「それが、パルモンやテントモンに出会う前のあたしたちよ」
ミミさんの一言に、二匹はより一層、穴が開くような勢いでアルバムを見ていた。
 そんな彼らにミミさんは、写真に写る小3の頃の僕たち、テントモンとパルモンたちに出会う前の話をした。すると。
「ミミと光子郎って最初から仲が良かったわけじゃなかったのね!」
「えっ、仲良い?」
 僕は思わず、パルモンに聞き返した。
「僕とミミさんが仲良いように見えます?」
「え? 違うの?」
 パルモンは首をかしげた。
「少なくとも、アタシにはそう見えるけど……ね? テントモンもそう思うでしょ?」
「そうでんな」
 テントモンもパルモンに同意し、僕は内心焦っていた。
「あれ?」
「ミミさん、どうしました?」
「この写真に写っている人……誰?」
 ミミさんが見ている写真を覗き込むと、ある若い夫婦と赤ん坊が写っていた。
「ああ、それは僕の本当のお父さんとお母さんです。ちなみに、この赤ん坊が僕ですけど、さすがに記憶にないです」
「え、そうなの!? そっくりー!」
 ミミさんとパルモンは同時に声を上げた。
「髪の色はお母さん、雰囲気は完全にお父さん似ね!」
「今のお父さんが亡くなったお父さんの遠縁……つまり遠い親戚ではあるので、多少は似るのかもしれませんね」
「もしかしたら。光子郎くん、きっと身長伸びるんじゃない?」
「どうしてです?」
「だって本当のお父さんの背が高いんだし、チャンスがある気がするわ」
「ああ、実はそこ、密かにすごく期待しているところです」
 わざとおどけて言うと、みんな可笑しそうに笑ってくれた。

「光子郎くんの本当のお父さんとお母さんって、なんのお仕事していたの?」
 ミミさんとパルモンの質問タイムは、まだまだ続いていた。
「お父さんが大学の講師、お母さんは大学で助手をしていたらしいです」
「ねえ。こうし、ってなに?」
 パルモンの疑問に僕は答えた。
「講師、というのは学校や塾などの先生のことです。つまりお父さんは大学の先生をしていたんです。ちなみに助手は、研究者を助ける仕事で。僕の本当の両親は、ふたりとも同じ大学で働いていて、そこで出会ったらしくて」
「きゃ! 学校で出会うなんて、ステキじゃない!」
 パルモンは両手を頬に当てて、と、色めき立っていた。
「もしかして、職場恋愛なの?」とミミさんに聞かれた。
「そのようです」
「へえ~」
 ミミさんとパルモンは同じように表情を変え、見ていてなんだか面白く感じた。
「僕の本当のお父さんは当時、まだ若かったのもあって講師で働いていたようなんですが。だけど天才肌の数学者だったって、いまのお父さんが言っていました」
「将来を嘱望……期待されていたようなんです。だけど、僕が生まれてからすぐ、出張先でふたり一緒に交通事故に巻き込まれて……そのまま」
「そうだったの……」
 ミミさんが静かに言った。場の空気がしんみりとしてしまったので、「あっ、なんだかすみません」と謝った。
「そういえば、空さんのお父さんも大学の先生だったわよね?」
「ん? ああ、武之内教授ですね」
 聞かれた僕は、空さんのお父さんである、武之内春彦教授の話をした。
「武之内教授と話すのが楽しくて、つい長電話になるんですよ。それでこの前空さんに、うちのお父さんが迷惑かけてないかって心配されちゃって」
「すごいね、光子郎くんは大学の先生と普通に話せちゃうの?」
「もちろん、教授も中学生である僕のレベルに合わせて話してくれるのだとは思いますが」
「光子郎はんの頭がええのは、親譲りなんですな」
 テントモンはしみじみと言う。
「そんなことないよ。まだまだ知らないことがたくさんあるし、知りたいことだらけで」
 自分としては正直に話しただけなのに、ミミさんから抗議が入った。
「昔から思っていたけど、光子郎くんって謙遜しすぎじゃない?」
「そうですか?」
「テストの点がいい理由を聞いても、普通に勉強していれば出来ますよ、としか言わないじゃない」
 なぜか不満そうなミミさんに、僕は以前から思っていたことを口にした。
「それはミミさんの勉強法が悪いんじゃないですか?」
「なによう!」
「まあまあ、ケンカせんでも」
 僕たちの喧嘩に、テントモンが仲裁に入り、この場はなんとか収まった。
「ねえ、ミミと光子郎の話、他にもっとないの?」
パルモンが、目を輝かせて聞いてくる。僕はないですと答えようとしたけれど――
「それじゃあ、とっておきの話があるの!」
「えっ、どんな話ですか」
 緊張する僕をよそに、ミミさんは嬉々として話し始めたのだ――

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