side:Koshiro
ミミさんが家に上がってから30分ほどした頃、買い物に出かけていたお母さんが帰って来て、ミミさんと対面した。
「あら、太刀川さんいらっしゃい!」
「お久しぶりです~!」
「また可愛くなったんじゃない?」
「そんなことないですよ~」
ミミさんとお母さんの話は10分ほど盛り上がり、その後、お母さんはリビングの方へ戻っていった。
「光子郎くんのお母さん、元気そうでよかった~」
お母さんと話をしたミミさんは、満足そうに笑っていた。
そこへ玄関のチャイムの音が聞こえた。
来客にはお母さんが出てくれたようだったけど、それからすぐ、僕の部屋をノックする音が聞こえた。
「ちょっと、出てもらえるかしら?」
お母さんは僕が手を離せない時には、言ってこない。
誰が来ているのかは教えてもらえず、僕は玄関のドアを開いた。すると。
「あ、泉先輩。こんにちは」
思いがけない来客者に、僕は固まった。
「み、京くん!?」
「あら、京ちゃん! こんにちは」
ミミさんの挨拶を返した京くんは、僕の前に顔を近づけた。
「ほら! やっぱりミミお姉様来てるじゃないですか!」
「やっぱりって、何がですか……」
「とぼけないでください! 泉先輩がミミお姉さまとふたりでおうちデートするかもしれないのに、あたしが見過ごせるわけないじゃないですか!」
京くんの発言に、僕は飛び上がりそうになった。
「デ、デート!? 京くん、人聞きの悪いこと言わないでくだ……」
「うん。そうだけど」
「ミミさん!?」
ミミさんの返事に、僕は思わずギョッとした。
「光子郎くんと昔の思い出話しようって、パルモンやテントモンも一緒におうちデートしようって約束していたの。あたしと光子郎くん、小学3年生の時も同じクラスだったから、その頃の話をたくさんしようって。……これは先月、みんなに話してなかったわよね」
「ないですぅ」
「京ちゃん、聞きたい?」
「聞きたいです!」
「ミミさんちょっと」
「京、そのへんにしとけよ」
困っていた僕に、京くんの後ろからやってきた大輔くんが間に入ってくれた。
「光子郎さん、困ってるだろ?」
「ちょっと、大輔には関係ないでしょ!?」
京くんは大輔くんに向かって噛みつくような勢いだった。するとそこへ、タケルくん、ヒカリさん、伊織くんもやってきた。
「京さん、僕たち光子郎さんたちの邪魔になりますから、今日のところは帰りましょう、ね?」
タケルくんの今日のところは、というキーワードが気になるものの、京くんを説得してくれてありがたい。
「そうだ京さん、お母さんがおはぎ作ってるから、来て欲しいって言ってました。もちろんみんなも来ていいそうです」
「伊織くんちのおはぎかあ」
「わたし、食べたいな」
「ヒカリちゃん! オレもオレも!」
タケルくんやヒカリさん、大輔くんはおはぎの話で盛り上がっていたけれど。
「いいえ、伊織!」
京くんは一筋縄ではいかなかった。
「おはぎ取ってすぐ戻って来て。泉先輩とミミお姉さまの話を聞くまで、あたし帰らないわよ」
伊織くんのお母さんのおはぎは絶品だ。僕はあの味を思い出し、一瞬気持ちが揺らいだけれど、僕の暗黒時代とも言えるあの頃の話を、みんなに知られたくなかった。そこへ、ミミさんが京くんに耳打ちした。
「あとで今日のこと、京ちゃんにこっそり報告するわ。その時はヒカリちゃんも一緒に来て! あ、空さんも必ず呼んでね」
「あの、聞こえてますけど。それに、ここで言ったらこっそりではないのでは」
ミミさんの爆弾発言に、僕はツッコまずにはいられなかった。
「えっ。わたし、行ってもいいんですか?」
ヒカリさんは遠慮がちに言った。
「もちろん! あ、本人がいないところの方が、こういうのって、盛り上がるのよね~」
「ちょっとミミさん!?」
「きゃー楽しみ!」
「京くん!?」
僕は局地的な謎の盛り上がりに、内心恐怖していた。
*
ミミさんの巧みな説得により、京くんはようやくあきらめることにしたようだ。
ただし。
「泉先輩。先輩の話もあとで絶対聞かせてくださいよ!」と言い残して。
「光子郎さん、おっじゃましましたァ~~!」
元気のいい大輔くんの声がドアの閉まる瞬間に遮断される。僕はしばらくの間、玄関のドアを黙って見つめていた。
「ねぇ、ミミ。光子郎の目が笑ってないわ……」
「そう? 普通な気がするけど」
(僕の昔の話をみんなに聞かれたら溜まったもんじゃない)
気の抜けた僕は、大きなため息を吐いた。
するとそこへ、思わぬ伏兵が現れた。
「あら、みなさん帰っちゃったの? せっかく光子郎の小さい頃の話をしようと思ったのに」
「えっ」
伏兵……僕のお母さんの言葉に、僕は耳を疑った。
「光子郎くんの? はい、はい! あたし聞きたいです!」
「あら、そう? それじゃあ、我が家の秘蔵写真もあるのだけど」
「わ~~! お母さん、いい、いいですって!」
僕は慌てて制止しようとした。だけど。
「ねぇ、光子郎。話しちゃ、ダメ?」
「うー……ダメ……じゃ……」
キラキラ笑顔で、無意識に弾圧してくるお母さんに、僕は成すすべもなかった。
そしてお母さんは嬉々として、テントモンとパルモン、そしてミミさんに僕の幼少時代の話をし始めたのだ……。