(泉くんって、なんだか難しい言いかたをするから、よく分からないけど。そうよ、分からないことは先生に聞けばいいんだわ! だってあの泉くんがそう言っていたんだもの。……よし、明日朝イチで先生に聞いてみよう!)
あたしはそう決意し、その日はおとなしくお家に帰った。
次の日。あたしはいつもより早く起きて、いつもより早くお家を出発した。
学校に着いてすぐ、あたしは担任の先生の姿を探した。
「先生!」
先生を見つけると、あたしはすぐに駆け寄った。
「あら、太刀川さん。おはよう。早いわね」
「先生はあたしが質問したら、なんでも答えてくれる?」
あたしの質問に、「うん。もちろんよ」と返事をしてくれた。
「あのね、ようし、ってどういう意味?」
「ようし?」
先生は首を傾げていた。
「泉くんが……」
「え、泉くんが?」
「泉くんがね……」
「うん、どうしたの?」
先生は優しく聞いてきた。
「昨日、泉くんのお父さんとお母さん、学校に来てたでしょ? それで……先生と話していたところ、聞いちゃって……」
話し終えると、先生は少し驚いた顔をしていた。そして声を潜めて、
「太刀川さん、このことは誰にも言ってないかしら?」と言った。
「うん、言ってない」
「今日の放課後、時間ある? その時だったらゆっくり話を聞いてあげられるの。太刀川さんの質問にも答えてあげられるかもしれないわ。泉くんのことをこれから、どうしたらいいかも含めてね」
先生の声はとても落ち着いていて、あたしに優しく言ってくれた。
その日の放課後、あたしはみんなが帰るのを待って、先生とふたりで話すことになった。
聞いてしまった話から、これまでに起こった泉くんとの出来事まで、先生は全て聞いてくれた。そして、先生は養子についても丁寧に教えてくれた。
一通り話し終えると、先生は一言こうつぶやいた。
「泉くんの気持ち、分かる気がするな」
「え? どうして?」
あたしは疑問に思った。養子のことはともかくとして、泉くんにされたことは納得がいかなかったからだ。
「先生もね、泉くんと一緒で、本当の親がいなかったから」
先生の思わぬ告白に、あたしは何も言えなくなってしまった。
先生は、小さい頃に両親がいなくなってしまい(蒸発したのだと言っていた)、親戚の家や施設をたらい回しにされていたらしい。最後にたどり着いた施設の人たちはみんな親切にしてくれたけど、それまでにお世話になっていた親戚は、みんな冷たかったのだという。だから先生は、泉くんの両親も、あたしの両親もいい人たちで羨ましいな、と言っていた。
「先生はね、先生と似たような境遇の……そういう子の力になってあげたいって。ううん、子供はみんな、可能性の塊だもの。みんなを守ってあげられる大人になりたいって思ったの。だから先生になったのよ」
先生は照れたように、だけどはっきりと言った。あたしは、そんな先生のことがもっと好きになった。
「先生はね、太刀川さんと泉くんって似ていると思うの」
「えっ……あたしが泉くんと?」
あたしは目を丸くした。あんなに違うのに、どこが似ているのだろうと、あたしは思った。
「泉くんはね、頭がいいし、本当はすごく素直な優しい子よ。それにとても純粋な心を持っているわ。それは太刀川さんも一緒。太刀川さんも優しくて素直で……純真だと思うの。まあ、子供はみんなそうだと思うんだけど、あなたたちは特にそれが強いと思うわ」
「先生ってすごいのね、何でも分かっちゃうんだ」
あたしが言うと、先生は、
「そうよ、何でも分かっちゃうわ」と返事をした。
「じゃあ、泉くんのこと、もっと色々教えてほしいの」
すると先生は、「どうして?」と聞いた。
「どうしてだか分からないけど、あたしね、泉くんのこと……もっと知りたい!」
先生はあたしのことを優しく見つめ、こんなことを質問してきた。
「不思議ね。太刀川さんは泉くんにいじわるされたと思っているんでしょう? 普通、いじわるされたら、泉くんのこと嫌いになると思うんだけど……彼のことをもっと知りたいだなんて、それはどうしてかしら?」
「うーん……どうしてかなあ」
先生に質問されて、あたしは考え込んでしまう。どうして泉くんのことをもっと知りたいと思うのだろう。
「先生が自分の経験から思う泉くんのことを、太刀川さんに教えてあげるわ。泉くんは純粋だからこそ傷つきやすいのだと思うわ。彼はね、自分の傷を、それを必死に隠しているのだと思うの。だから、太刀川さんに言ってしまったことも、自己防衛、自分を守るために言ってしまったことだったのかもしれない。これはあくまで先生の推測……先生が勝手に考えていることなんだけどね。
だからもしかしたら、あなたが泉くんのことを追いかけていたから、泉くんはびっくりしちゃったのかもしれないわ。だけどね、泉くんが太刀川さんに悪口を言ったのは良くないと思うけれど」
それを聞いたあたしは、納得してしまった。
そうか。確かにあたし、必要以上に彼につきまとっていた。
そうだったら、あたしは泉くんになんてことをしてしまったのだろう。
あたしは今、とても後悔していた。
話の終わりの頃、先生はあたしにこんな話をしてくれた。
「泉くんはね、面と向かってちゃんと話せば絶対に分かってくれる子よ。先生はそう信じているわ」
先生は真っ直ぐな目であたしを見た。
「太刀川さんは泉くんと、必ず仲直り出来ると、先生は思うわ。だからねこれ、あなたにあげる」
そう言って、先生があたしに渡してくれたのは、綺麗な色のミサンガだった。
「仲直りできる、おまじないをかけてあるわ。泉くんと仲直り出来るといいわね」
先生はあたしの手を握り、優しく笑ってくれた。