キミと見たいつかの夜空 - 19/20

「ところで、太一さんもミミさんも、どうやってこちらに来たんですか? 僕たちが持つのは、従来型のデジヴァイスですし、太一さんは僕の家の近くのマンション、ミミさんはアメリカで……口裏合わせをしていたにしても、話が出来すぎかと思うんですが」
疑問に思っていた僕がふたりに訊くと、ここに来る前の自分の状況を答えてくれた。
「オレ、たまたま夜中に目が覚めて。自分の部屋のパソコンにゲートが開いていることに気がついたんだよ。で、慌てて飛び込んだわけ」
「あ、そういえばあたしもよ! お部屋で普通にパソコン使っていたら、画面が急に光りだして、それで」
つまりそれは――、3箇所も同時にゲートが開いたことになる。僕が知る限りでは初めてかもしれない。
「3箇所も同時にゲートが開くなんて。そんなこと、あるんですね。不思議だ」
「不思議もなにも、この世界自体、摩訶不思議じゃない!」
「そういうのってさ『事実は小説より奇なり』、って言うんだったよな?」
「太一さん、案外難しい言葉、ご存知なんですね」
僕が意外に思ったことを言うと、おどけた様子で、太一さんが反論した。
「おいおい、オレのことバカにするなよ。そのくらい知っているさ。なあ? アグモン」
太一さんが隣にいるパートナーに同意を求めると、
「ふえ? ぼくも意外だと思った」という返事だった。
「おいこら、アグモン! おまえなあ」
太一さんの抗議に、思わずみんなで笑った。

「それにしても不思議だ」
「不思議って、何がでっか?」
「僕たちが、3年前と同じような条件で会うことができたことです。偶然にしてはやっぱり出来すぎていますよ」
懲りずに僕が、再び疑問を持ち出すと。
「もしかして。今回は、デジタルワールドの恋の神様、みたいなものが、オレたちを導いてくれているのかもな」
と、太一さんが言った。
「え、そんなものがこの世界にいるんですか?」
「いいわね! あたし、デジタルワールドに神社みたいなところがあるなら、拝みに行きたーい!」
そこで、僕は思いついたことがあった。
「もしかして、その神様って、デジタルワールドの安定を望む者(ホメオスタシス)だったりするのでしょうか」
「ああ、そういえばそんなやつ、いたなあ」
「それって昔、太一さんとヤマトさんが大ゲンカしていたときに、ヒカリちゃんに乗り移った人のこと?」
「そうそう。あのときはオレも、すっごくガキだったな。思い出すだけでも恥ずかしい。でもそういやヒカリのやつ、あのこと全然、覚えていなかったんだよなあ」
昔のことを思い出しながら談笑していると、アグモンが突如、「ああ〜〜っ!」という、叫びとも歓声とも言えぬ声を上げた。
「な、なんだよ、アグモンいきなり」
「ど、どうしたのよお」
抗議するように、太一さんとパルモンがアグモンに聞くと、アグモンはこう答えた。
「みんな、あれ! 流れ星〜!」
その一言に、さっきまでの空気は一変した。
「え! どこ、どこ!?」
ミミさんとパルモンが、声を揃えて聞いた。みんなで空を見上げると、そこにはたくさんの流れ星があった。
きっとこれは、流星群だ。
「わあ〜〜!」
「きれいだねえ」
「すげえな」
僕たちは流星群を見ながら、感嘆の声をあげていた。
「オレたちにとって流れ星ってさ、なんか特別だよな」
そう言って、太一さんは笑った。
「そうだ。ふたりはいまだったら、流れ星になにを願う?」
「えー、なんだろ。光子郎くんは?」
「僕は、このまま研究を続けて……デジタルワールドの謎を解明したい。できたらいいなって」
この思いは、3年前のあの日から変わっていないんだ。
「ねえ、光子郎くん。なんか大事なこと忘れてない?」
「え? 大事なことですか?」
僕が首をかしげると。
「あたしのことは?」
ミミさんの顔が膨れている。まずい。
「も、もちろん、できる限りミミさんと一緒にいたいです」
「当然でしょ!? あたしたち、付き合っているんだから!」
ミミさんは鼻息を荒くしている。ミミさんと付き合えることにはなった。そして、他人と以前よりは打ち解けて話せるようにはなったけれど。僕には乗り越えなくてはいけない壁が、まだまだたくさんある。人付き合いへの苦手意識がなくなったわけではないのだ。
昔よりだいぶマシになったとはいえ、いまみたいにミミさんや、他の人の気持ちを読まないまま、対応してしまうことがしばしばある。ミミさんに怒られないよう、普通に付き合えるようになるまでの道のりは、まだまだ果てしなく、遠い気がしてならない。
「くくく……で、そんなミミちゃんは?」
太一さんはミミさんの様子を面白がりながら、改めてミミさんに質問した。
「あたしは、自分の好きなことを、たーくさんして、それに光子郎くんと一緒にいたい! もちろん、パルモンやみんなとずっと一緒にいたいわ!」
「なるほどな。オレはどうしようかなあ」
悩ましそうに腕を組んだ太一さんに、ミミさんが切り込んだ。
「太一さんはサッカー選手を目指さないの? 前に、大輔くんやヒカリちゃんから聞いたんだけど、中学でも太一さんはエースストライカーなんでしょ?」
「まあ一応そうだけど。何事にも、上には上がいるし、未来のことは分からないからな」
「えーっ、太一さんらしくなーい」
ミミさんは口を尖らせた。けれど、太一さんは行動的な反面、冷静さを持ち合わせている人だ。現実的に、そして前向きに、先を見据えている。
「未来のことは分からない。でも、それでもはっきりと言える願いがあるんだ」
太一さんは、小さく呼吸を整えてからこう言った。
「オレさ。もう一度、冒険の旅がしたい。もちろん、みんなと一緒に」
もう一度、冒険する。それはもしかしたら、僕たちみんな、やりたいと願っていることかもしれない。
あの夏、デジタルワールドを後にした最後の日。ゲートの時間制限という壁に阻まれ、叶わなかった冒険の続きを――
「あたしも! ……とは言っても、3年前みたいなハードなのは、もうこりごりだけど」
「でもその前に。僕たちには、やらなくてはいけないことがあるの、忘れてはいないですよね?」
「もちろん忘れてないさ。『打倒、デジモンカイザー!』だろ?」
いまの僕たちの最重要任務は、デジモンカイザーである一乗寺賢くんと戦うことだ。この戦いも、あのときと同じく、いつまで続くのかは誰にも分からない。神のみぞ……ならぬデジモンカイザーのみぞ知ることなのかもしれない。
「あたしも、アメリカから応援しているから! なにか手伝えることがあったら、なんでも言ってね!」
「ああ、こっちのことは任せろ。な、光子郎」
「ええ。それに僕たちには、頼りになる後輩もいます。大輔くんたちに、僕たちの思いを託しましょう」
そう言って、うまく締めたと思った瞬間、
「なんや、光子郎はん。ワテらもう引退かい」
と、テントモンにツッコまれた。
「アタシ、まだまだ戦えるわよ?」
「ぼくだって、究極体まで進化できれば、むしろ百人力になれるよ?」
パルモンやアグモンからも、次々と抗議され、困っていると、太一さんから思わぬ助け船が出た。
「ちょっと待て。おまえらの言いたいことはよく分かる。だけど、いまのオレたちにできることは限られている。そうだよな、光子郎」
「そうですね、僕たちには、まず自由にゲートを開く力がありません。それに、成熟期以上の進化――完全体や究極体への進化が昔に比べ、難しくなっています」
「あたしたちの紋章、デジタルワールドのために使っちゃって、なくなっちゃったんだもんね」
「ミミさんの言う通りです。でも厳密に、正確に言えば、紋章は「僕たちの心の特質の増幅器」ですので。太一さんでしたら勇気、ミミさんでしたら純真、そして僕は知識……それぞれのその心が無くならない限りは、希望があると思います」
僕がそう言い切ると、みんなの表情が明るく変わった。
「それじゃぼくたち、まだまだやれるってこと?」
「そうだな。むしろ、オレたちにしか出来ないことだってあるはずだ」
「アタシ、この世界やミミ、みんなのためなら頑張るから! ね? ミミ!」
「うん! アメリカからでも、頑張っちゃうんだから!」
みんなの士気が上がってきた。よかった。
「僕たちも、出来る限りの事を、全力でやりましょう」
「せやせや!」
「あたしも、まだまだ京ちゃんには負けられないんだから!」
「じゃあ、みんな。それぞれの場所で、負けずに戦い続けるぞ、いいな」
太一さんのその一言に、僕たちは頷いた。
僕のようなタイプより、場の空気をまとめるのは、やっぱりリーダー気質の太一さんが一番だ。僕は改めてそう思った。

たとえ冒険の主役が変わろうと、デジモンやデジタルワールドと関わりを持つ僕たちは、それと無関係ではいられない。
僕たちには、デジモンたちと関わり続けるであろう、未来(あした)が待っているのだから。

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