キミと見たいつかの夜空 - 16/20

ボクが謎の感情の正体についての悩みを、思い切って太一さんに打ち明けると、太一さんは小さく考えてから、こう言った。
「んー、それはな、たぶん『恋』だ」
「えっ! これが?」
ボクは恋というものの意味を知ってはいたけど、これまで、自分は恋などとは無縁に生きてきたため、自分で全く気が付かなかった。まさかそれを、太一さんに指摘されるとは。
「おまえ、さっき好きっていうのが、どんなことか分からない、って言っていたけど……ほら、パソコンは好きなんだろ?」
太一さんの質問に、ボクは即答した。
「あ、はい。好きです」
「じゃあ、オレやテントモンのことは?」
「えっ……太一さんですか?」
ボクがそう聞き返すと、
「あっ、もちろん変な意味じゃねえぞ。仲間とか友達としてだな……」
と、太一さんが弁明めいた、口ごもった声で返事をした。
「えーっと、つまりだな、オレやテントモンのことが、好きか嫌いか。シンプルな質問だろ? 深く考えるなって」
「……好きです。それにボク、太一さんのことを尊敬しています」
「えっ。そ、尊敬っておまえ。そ、そうか……。改まって言われると、なんか恥ずかしいな」
太一さんは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「でもうれしいよ。サンキューな」
「太一さんはボクのこと、友達って思ってくれていたんですね。そう言ってもらえて……ボク、嬉しかったです」
「そんなの当たり前だろ? オレは、なんとも思ってもないやつのことを、キャンプに誘ったりはしない」
そうだ。ボクは太一さんに誘われて、サマーキャンプに参加したんだ。もし、このキャンプに参加しなかったら。ボクは太一さんと、こんなに親密に相談する関係になんてならなかっただろうし、ミミさんとも、ただのクラスメイトのまま、お互いに何事もなく過ごしていただろう。
そして、ボクが夢中になれるもの、テントモンやアグモンを始めとするデジモンたちや、この世界、デジモンワールドに出会うこともなかっただろう――
そう思うと、この縁は不思議で、かけがえのないものだと思えてくる。
「話が逸れたから元に戻すな。んで、ミミちゃんのことは?
好き? それとも嫌い?」
少しの沈黙の後、ボクはやや小さい声で、しかしはっきりと「好きです」と答えた。
「そっか。好きってちゃんと分かっているなら、話は早いさ」
「そうでしょうか」
「大丈夫、自信持てって。少なくとも、おまえが嫌われてないのは間違いない。むしろ……あの感じだと、ミミちゃんはおまえのこと、好きなんじゃないか?」
「そ、そうですかね? ボク、そういうのさっぱりで……」
ついさっきまで、ミミさんへの恋心すら自覚していなかったのだ。自覚したところで、ボクに恋愛はハードルが高すぎる。
「もし協力してほしいことがあったら、いつでも言ってくれ。オレがいくらでも、おまえのアシストしてやるよ。サッカーみたいにうまく出来るかは分からないけど……とにかくオレ、おまえのこと、応援しているからな。頑張れよ」
そう言って太一さんは、ボクに笑いかけてくれた。人の感情に疎い面もある太一さんだけれど、いまのボクにとっては、強力なサポーターだ。
「わかりました。本当に、ありがとうございます」
そう太一さんにお礼を言ったボクは、自分の気持ちを素直に出せたせいか、大あくびをしてしまった。だいぶ眠気も強くなってきている。大あくびをしたボクを見て、太一さんは苦笑いした。
「いい加減、寝たほうがいいぞ? おまえの寝る時間、なくなっちまうからな。見張りはオレとアグモンに任せとけ。な!」
「そうそう、ちゃんと寝たほうがいいよ?」
太一さんとアクモンにそう促されたボクは「わかりました」と返事をした。
ボクは、ミミさんという人を好きになったこと……そしてこんなボクのことを理解してくれる、太一さんという心から頼れる人がいることに、幸せを感じていた。
「おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
こうしてボクは、不思議な安堵感に包まれて、眠りについた――――

 

*   *   *

 

(あれ、ここは………)
僕がふと目を開けると、そこは自分の部屋だった。
(さっきのは………夢?)
ベッドから身体を起こして、カレンダーに目を向ける。カレンダーは2002年7月のページだった。
「そうだよな。いまは2002年だ……僕は中1だし……」
ひとりごとをぶつぶつ言いつつ、僕は思わず自分の身体を見た。夢の中では小学4年生だったせいか、自分の目線は結構低かったけど、いまはそこまで低くはない。あの頃より随分と伸びた身長。中学生男子の中だと決して高くはないけれど、小学4年生のときの僕と比べたら……
(あの頃はきっと低すぎたんだ、うん)
夢の中でミミさんに言われた身長のこと。
実はいまでも、僕はミミさんより若干背が低い。だけど。
(そのうち必ず、ミミさんを追い抜くぞ……)
まだまだ寝起きのため、頭が十分に働かない。だから自分でも謎の決意をした。
僕はまだ、どこか夢心地のまま、覚醒しきっていない頭を、少しずつ働かせていく。
(なんだかとても、懐かしい夢だったな)
あれはまだ、デジタルワールドから現実世界に、みんなで戻って来る遥か前――ヴァンデモンどころか、エテモンすらも倒していない頃の出来事だった。
そう、さっきまでの話は、夢の話だけど、全て実際の出来事だったのだ。
「それにしても、夢にしては随分とリアルだったな。あの星空を見ているところなんか特に」
僕は、夢で見ていた星空のことを思い出していた。ミミさんと、太一さんと、テントモンたちと見ていた、デジタルワールドのあの日の夜空。
とても長いようで、とても短かった、夏休みの記憶――

『光子郎くん、また一緒に、星を見ようね!』

「いまでもミミさんは……そう思ってくれているのかな」
僕は、いまは遠く離れた国に住む、未だに片思いをしている人のことを想いながら、そうつぶやいた。

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