プラネタリウム〜星空のエール〜【連載中】

 電脳世界の夜空に浮かぶ、誰もが見知らぬ星々。それはまるで、精巧に造られたプラネタリウムにも似て。けれどそれが故、言葉で言い表せないほどに美しかったーー

 

 

プラネタリウム〜星空のエール〜

 

 

 2006年7月下旬。ぼくは、今しがた訪れた客人をもてなすため、冷蔵庫にある水出し麦茶を注いだグラスをふたつお盆に乗せ、自室へと戻った。
 ドアを開けると客人……もといぼくの恋人である太一さんがぼくの部屋に置いてある扇風機にへばりついて「あ〜〜」と声をあげていた。そして振り向きざまに一言。
「光子郎の家、最高にすずしい〜〜〜」
 その光景を見たぼくは、苦笑いを浮かべた。
 彼がぼくの家に来る前に、事前に電話で事情は聞いていた。八神家のエアコンが故障してしまったらしく、暑がりの太一さんはたまらず、ぼくの家に避難したいと、勉強道具を持参してやってきたというわけだった。
「太一さん、麦茶持って来たのでどうぞ」
 差し出すより早く、太一さんはグラスを手に取ると、あっという間に一気飲みをして、勢いよく元のお盆の上に置いた。
「ああ〜、生き返ったあ……」
 ベッドの縁に腰掛けたぼくは、大きく息をついた太一さんに「大変でしたね」と声をかけながら、質問をした。
「修理、いつ頃きてくれそうなんですか?」
「母さんが言うには、今度の日曜に来てくれるってさ。それまでは我慢しないとな」
 そう言いながら太一さんは「でも我慢できるかな……オレの勉強時間……」と遠い目をしながらぼやいていた。
 太一さんは今年、高校3年生。つまり、大学受験を控えている受験生なのだ。夏休みの今は貴重な時間だけど、集中力を欠くであろう夏の暑さは大きなアドバンテージになるから、太一さんのためにも、八神家のエアコンが早急に直ることを祈るしかない。
 だけど、直らなかったら直らなかったで、ぼくの脳裏にはあることが掠めるのだ。
「もしもの時は……夏休みですし、しばらく、ぼくの家かオフィスに泊まっていきませんか? そのほうが絶対、勉強捗りますよね?」
 ぼくと太一さんは常日頃、頻繁に勉強会を開いている。ここだけの話、太一さんが予備校に行かない代わりの家庭教師……みたいなことをぼくは担っているのだ。
 実際、ぼくと勉強会をし出してから、太一さんの成績は右肩上がりで、志望校のランクを何度も上方修正していたのだ。その姿を目の当たりにしているから、勉強のため、と言えば太一さんのおばさんもすんなり納得してくれそうで。そしたら太一さんといられる時間もずっと増えそうだ。
「まあ、オレもそのほうが嬉しいけど……母さんが許してくれたらな」
「そのあたり、ぼくが説得しますので安心してください」
 ぼくが笑って答えると、太一さんは笑みを含んで「任せた」と答えた。
「そういえば。テントモンが教えてくれたんですけど。観測から推測するに、おおよそ一週間後に、流星群が発生するそうです。デジタルワールドで」
 ぼくが告げた情報に、太一さんは、
「マジか。見に行きたいな」と返した。
「勉強の成果次第ですが……これは?」
 ぼくは眼前に差し出された、一枚の紙について太一さんに質問した。すると返ってきた返事は思いがけないものだった。
「この前受けた模試の結果。結構いい線いったと思うんだよな」
 ぼくはそれを受け取ると「拝見します」と言って、太一さんの努力の成果を見た。
「……すごい。かなり上がっているじゃないですか」
 ぼくの褒めに、太一さんは照れ臭そうに笑った。
「これも全部、おまえのおかげだよ」
「なら、行っても大丈夫そうですね」
「へ? 何に?」
 きょとんとした太一さんに、ぼくは胸を張って答えた。
「デジタルワールドに。一緒に見に行きませんか? 流星群を」

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